「北海道に住んでみたい」と思ったとき、いきなり移住するのはリスクが大きすぎます。仕事を辞めて、家を引き払って、知らない土地に飛び込む。うまくいく保証はどこにもありません。
そんなとき使えるのが、北海道独自の体験移住制度「ちょっと暮らし」です。自治体が用意した家具・家電付きの住宅に滞在しながら、その地域のリアルな暮らしを試せます。
この記事では、制度の仕組みから費用、申込方法、体験中にやるべきこと、そして体験後に本移住へ進む際の判断基準までをまとめています。北海道移住の全体像については北海道移住ガイド(暮らし・仕事・お金の全体像)もあわせてご覧ください。

私も移住前にこの制度を使いました。「観光で来たときは最高だったのに、実際に生活してみると見えるものが全然違う」。この体験があったから、移住先を間違えずに済んだと思っています。
「ちょっと暮らし」とは何か
「ちょっと暮らし」は、北海道が独自に展開している体験移住制度です。移住を検討している道外在住者が、実際に北海道の市町村に短期〜中期で滞在し、「生活者の目線」で地域を体験できます。
旅行や観光との違いは明確です。ホテルに泊まって名所を回るのではなく、自治体が用意した住宅で自炊し、スーパーで買い物をし、地域の人と顔を合わせる。つまり「暮らす」ことそのものを体験します。
制度の運営は、北海道庁と一般社団法人 北海道移住交流促進協議会(北海道で暮らそう!)が中心になっています。協議会には道内の移住受入に積極的な市町村が参加しており、「ちょっと暮らし」住宅の整備や移住相談窓口の運営を行っています。
制度の目的は、移住前に実際の暮らしを体験してもらい、移住後のミスマッチを防ぐことです。「思っていたのと違った」という理由で数年で戻ってしまう人は少なくありません。制度を使えば、そのリスクを事前に減らせます。
制度の基本情報(対象者・期間・費用)
対象者と参加条件
基本的な参加条件は「北海道外に住んでいて、北海道への移住を検討していること」です。年齢制限は設けていない自治体が多く、単身でもファミリーでも利用できます。
ただし、自治体によって条件は異なります。南幌町のように「20歳以上の世帯員を含む家族」を条件とし、単身での利用を受け付けていないケースもあります。ペットの同伴も自治体ごとに対応が分かれるため、事前の確認が必要です。
リモートワークをしながらの参加は、近年広がっています。Wi-Fi環境が整った体験住宅も増えており、新得町のように「町が認めたテレワーク」を許可している自治体もあります。仕事を完全に休まなくても体験できるのは、制度利用のハードルを下げる大きなポイントです。
滞在期間
滞在期間は自治体によって異なりますが、おおむね1週間〜3か月が一般的です。短いところで1泊2日から、長いところで最大6か月まで受け入れているケースもあります。
| 滞在タイプ | 期間の目安 | 向いている人 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 短期 | 1〜2週間 | まず雰囲気を知りたい人、仕事を長く休めない人 | 生活のリアルな部分(ゴミ出し、通院、冬道の運転など)まで体験しきれない |
| 中期 | 1〜3か月 | 本格的に移住を検討している人、リモートワークで長期滞在できる人 | 費用がかさむ。現住所の郵便物や契約類の管理が必要 |
時期の選び方も重要です。夏の北海道は気候も良く、観光気分で「住める」と錯覚しやすい。しかし冬を体験しないまま移住を決めると、雪と寒さに耐えられず1〜2年で戻るケースが実際にあります。
可能であれば、11月〜3月を含む期間での体験をおすすめします。マイナス10℃以下の朝、除雪作業、凍結した道路の運転。これらを「無理なくやれそうか」を自分の体で確認してください。ただし、夏にしか休みが取れない人は、夏の体験でもまったく無意味ではありません。「冬も別途体験する」という前提で計画を組めば問題ありません。
費用
体験住宅の利用料は、自治体によって大きく異なります。無料のところもあれば、1日あたり2,000〜3,300円程度かかるところもあります。多くの場合、光熱水費やインターネット使用料は利用料に含まれています。
新得町:1日2,000〜3,300円(暖房料は11月〜4月に1日500円加算)
陸別町:1日2,000〜2,700円(施設により異なる)
別海町:1日3,000円(11月〜3月は暖房費として1日600円加算。水道光熱費・Wi-Fi込み)
※利用料は年度ごとに改定される場合があります。最新の金額は各自治体に直接ご確認ください。
自己負担になるのは、往復の交通費、食費、日用品、寝具レンタル代(必要な場合)です。交通費の補助を行っている自治体は一部に限られます。
1か月体験した場合のトータル費用を試算すると、おおよそ以下の水準になります。
| 費目 | 目安(1か月・1人) |
|---|---|
| 住宅利用料 | 6万〜10万円(1日2,000〜3,300円×30日) |
| 食費・日用品 | 3万〜4万円 |
| 交通費(東京→北海道往復) | 3万〜6万円(飛行機の場合) |
| 現地の移動費(ガソリン代・レンタカー代) | 2万〜5万円 |
| 合計 | 14万〜25万円程度 |
無料〜格安の住宅を用意している自治体を選べば、トータルを10万円台前半に抑えることも可能です。旅行で1か月ホテルに泊まるよりはるかに安く、しかも「暮らし」を体験できる。費用対効果は高いです。
体験できる自治体と施設
体験住宅の種類
体験住宅は大きく3つのタイプに分かれます。
1つめは、自治体が所有する体験専用住宅。一戸建てやアパートの一室として整備されており、家具・家電・調理器具が備え付けられているケースがほとんどです。
2つめは、公営住宅の空き室を活用したもの。別海町のように、元職員住宅をリノベーションして体験住宅にしている自治体もあります。
3つめは、民間の宿泊施設と提携しているケース。ニセコ町のように、町内のホテルやゲストハウスで長期滞在プランを用意している例があります。
Wi-Fi環境は多くの施設で整備が進んでいますが、すべての住宅にあるとは限りません。リモートワーク目的の方は、申込前に必ず通信環境を確認してください。
エリア別の体験移住先
北海道は広大なため、エリアによって気候も暮らしぶりもまったく異なります。以下に、エリアごとの代表的な受入自治体を紹介します。
| エリア | 代表的な受入自治体 | 特徴 |
|---|---|---|
| 道央 | 南幌町、栗山町、東川町 | 札幌や旭川へのアクセスが良く、都市機能と自然のバランスが取りやすい。東川町は旭川空港から車で約10分 |
| 道南 | 厚沢部町、森町 | 比較的温暖で積雪量も道内では少なめ。函館圏の生活圏に入る自治体が多い |
| 道北 | 陸別町 | 「日本一寒い町」として知られる。冬の厳しさを体験したい人にはうってつけ |
| 十勝・道東 | 上士幌町、新得町、釧路市、別海町 | 釧路市は「ちょっと暮らし」利用者数が長年トップ。夏が涼しく、避暑目的の長期滞在者も多い。上士幌町は生活体験モニター制度が充実 |
| オホーツク・知床 | 羅臼町 | 世界自然遺産・知床の玄関口。漁業と観光が主産業で、自然との距離が近い暮らしを体験できる。就業体験と組み合わせた移住モニター制度もある |
受入を終了している自治体や、年度によって募集を休止している場合があります。申込前に必ず各自治体の公式サイトまたは電話で最新の受入状況を確認してください。
エリアごとの暮らしの特徴(気候、交通、医療、教育など)は北海道エリア別ガイドで詳しくまとめています。
体験移住先の探し方
体験住宅を探す方法は、主に3つあります。
もっとも網羅的なのは、北海道庁の移住定住ポータルサイトです。「ちょっと暮らし住宅一覧」がExcelファイルで公開されており、全道の受入自治体・施設・利用料を一覧で確認できます。
対面で相談したい場合は、ふるさと回帰支援センター(東京・有楽町)に北海道の移住相談窓口があります。事前予約制で、オンライン相談にも対応しています。
候補地がある程度絞れているなら、各自治体のHPから直接問い合わせるのが早いです。「○○町 移住 ちょっと暮らし」で検索すれば、担当課の連絡先にたどり着けます。



夏は人気が高く、早い段階で埋まる自治体が多いです。特に7〜8月を希望するなら、4月には動き始めたほうがいい。私が利用したときも、第一希望の自治体は満室で、第二希望で体験しました。
申込から滞在までの流れ
申込方法
「ちょっと暮らし」の申込先は、各自治体の担当課です。北海道庁や協議会に一括申込する仕組みではなく、希望する自治体に直接連絡する形になります。
一般的な流れは以下のとおりです。
- 自治体に電話・メール・Webフォームで空き状況を確認し、仮予約する
- 申込書、身分証明書のコピー(運転免許証・マイナンバーカード等)、事前アンケートを提出する
- 自治体から利用許可の連絡が届く
- 体験初日に役場で賃貸契約を結び、利用料を支払う
先着順の自治体が多いですが、上士幌町のように審査・選考を行うケースもあります。申込から決定まで数週間かかることがあるため、余裕を持ったスケジュールで動いてください。
出発前の準備
- 衣類(冬の場合はヒートテック・ダウン・防水ブーツが必須。本州の冬服では不十分)
- 仕事道具(PC・モバイルWi-Fi。体験住宅のWi-Fi速度は事前に確認)
- 車の手配(現地での移動手段は車が前提。持ち込みかレンタカーかを決めておく)
- 寝具の確認(備え付けの有無は施設による。レンタルサービスがある自治体もある)
- 現住所の手続き確認(短期滞在なら住民票は移さなくてよいケースが多い。郵便物の転送設定はしておく)
冬に体験する場合、防寒装備は本州基準で考えないでください。外気温がマイナス15℃になる地域では、裏起毛のインナー、ダウンジャケット、防水・防滑のブーツが最低限です。現地のホームセンターで買い足すのも手ですが、到着初日から寒さに直面するので、出発前に揃えておくのが安全です。
滞在中の過ごし方
体験移住の目的は「観光」ではなく「生活」です。滞在中にやるべきことと、やりがちな失敗を整理します。
- スーパーで買い物して自炊する。物価の感覚、品揃え、買い物の利便性を肌で確認する
- 役場の移住担当者に会いに行く。ネットに出ていない支援制度や、地域のリアルな情報を聞ける
- 地域のイベントや集まりに参加する。人間関係の距離感、コミュニティの雰囲気をつかむ
- 通勤ルートを実際に走る。冬道のスリップ、除雪のタイミング、所要時間の変化を体感する
- 医療機関の場所と距離を確認する。最寄りの総合病院まで何分かかるかは、移住後の安心感に直結する
- 観光地巡りだけで滞在期間を使い切ってしまった
- 夏だけ体験して「最高の環境」と判断し、冬を知らないまま移住を決めた
- 地域の人と交流せず、「住宅にこもってリモートワークしていただけ」で終わった



私の場合、滞在3日目に地元のパークゴルフ大会に飛び入りで参加しました。そこで隣の町から移住してきた先輩移住者と知り合い、「冬の灯油代は月3万覚悟したほうがいい」という生々しい情報をもらえた。こういう出会いは、家にこもっていたら絶対に得られません。
「ちょっと暮らし」以外の体験方法
「ちょっと暮らし」の対象外だった場合や、もっと気軽に試したい場合の代替手段を3つ紹介します。
ワーケーション
仕事をしながら北海道に1〜2週間滞在し、生活環境を確認するスタイルです。自治体がワーケーション向けの施設や滞在プランを用意しているケースが増えており、コワーキングスペース付きの宿泊施設を備えた地域もあります。
「ちょっと暮らし」が「生活メイン」なのに対し、ワーケーションは「仕事メイン」です。「まず仕事環境として成立するかを確認したい」という段階の人に向いています。
マンスリーマンション・短期賃貸
札幌や旭川などの都市部なら、自治体の制度を使わずにマンスリーマンションを自分で手配する方法もあります。家具・家電付きで月6万〜10万円程度が相場です。
自治体の体験住宅は郊外に多いため、「まず都市部で北海道の暮らしを試したい」という人には、マンスリーマンションのほうが合っている場合もあります。申込時の審査もなく、自由度が高いのがメリットです。
ふるさとワーキングホリデー
総務省が推進する「ふるさとワーキングホリデー」は、地方に2週間〜1か月ほど滞在し、働きながら地域の暮らしを体験する制度です。学生も社会人も参加できます。
北海道は実施道府県のひとつで、浦河町をはじめ複数の自治体が受入を行っています。農業、宿泊業、地域おこしなど、地域ならではの仕事を体験できるのが特徴です。仕事による収入を得ながら滞在できるため、費用面のハードルが低い点もポイントです。
詳細は総務省ふるさとワーキングホリデーポータルサイトで募集情報を確認できます。
「ちょっと暮らし」との違いは、ワーキングホリデーが「仕事×体験」のセットである点です。仕事を通じて地域との関係が深まりやすく、移住後の就職先を見つけるきっかけにもなり得ます。
体験で陥りやすい誤解と注意点
体験移住は有効な手段ですが、万能ではありません。よくある誤解を整理します。
- 「1〜2週間の体験で移住先を決められる」と思い込む。短期体験で分かるのは第一印象だけ。判断するなら最低1か月、できれば冬を含む複数回の滞在が望ましい
- 「体験住宅の設備=移住後の生活水準」と考える。体験住宅は自治体がきれいに整備したもの。実際に移住して借りる物件の築年数や設備レベルは異なる場合がある
- 「夏の快適さ」だけで判断する。北海道の夏は確かに過ごしやすい。しかし冬は日照時間が短く、除雪が日常になり、光熱費が跳ね上がる。季節ごとの落差を知っておく必要がある
体験住宅の利用料は自治体によって毎年改定されることがあります。この記事に記載している金額は2025年度の実績に基づくものです。利用前に必ず最新の情報を各自治体に確認してください。
体験移住から本移住へ進むときの判断基準
体験後に振り返るべき5つのポイント
体験を終えたあと、以下の5つについて率直に振り返ってみてください。
- 冬の寒さ・雪に耐えられそうか(体験が夏だった場合は、冬の情報を別途集める必要がある)
- 仕事の目処は立ちそうか(リモートワーク継続か、現地就職か、その見込みは現実的か)
- 地域の人との関係性はイメージできたか(挨拶だけの付き合いか、もう少し踏み込んだ関わりがあるか)
- 買い物・医療・教育のアクセスに不満はなかったか(日常的に車で30分以上かかるなら、ストレスになる可能性がある)
- 家族全員が「住みたい」と思えたか(自分だけが乗り気で、家族が消極的なまま移住するとトラブルになりやすい)
5つのうちひとつでも強い不安が残るなら、別の地域でもう一度体験するという選択肢もあります。北海道は179の市町村があり、エリアによって気候も暮らしも大きく違います。最初の体験で「ここじゃない」と感じたとしても、北海道移住そのものを諦める必要はありません。
本移住に進む場合の次のアクション
体験を終えて「ここに住む」と決めたら、具体的な準備に入ります。
まず、移住支援金の申請条件を確認してください。東京23区からの移住であれば、最大100万円(世帯の場合)の支援金が受けられる可能性があります。詳しくは北海道移住の全手順と支援金の情報にまとめています。
仕事の確定も並行して進めます。体験中に地元の企業と接点を持てていればベストですが、これからの場合は北海道の仕事の選択肢を参考にしてください。
退職を伴う移住の場合、雇用保険(失業保険)の受給手続きも重要です。移住のタイミングと受給期間の関係を事前に整理しておかないと、受給額に影響が出ることがあります。
制度情報は2026年3月時点の公式情報に基づいています。制度内容は年度ごとに変更される可能性があるため、申込前に各自治体および北海道庁 移住定住ポータルサイトで最新情報を確認してください。
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