「北海道で暮らしてみたい」
そう思ったとき、最初にぶつかる壁は仕事とお金です。
リモートワークで今の仕事を続けるのか、道内の企業に転職するのか。退職後の収入はどうなるのか。冬の暮らしは本当にやっていけるのか。調べれば調べるほど、情報が散らばっていて整理がつかなくなります。
この記事では、実際に北海道へ移住した編集部が、仕事の選択肢・お金の制度・暮らしのリアルを1ページにまとめました。制度の概要だけでなく、「自分の場合はどうすればいいか」を判断するための分岐点まで書いています。

私自身、退職から移住までの3か月間で一番苦労したのが「情報の交通整理」でした。このページが地図がわりになればうれしいです。
北海道で働く──選択肢は5つある
北海道=仕事がない、というイメージを持つ人は少なくありません。たしかに首都圏と比べれば求人数は限られます。ただし、働き方の選択肢自体は意外と多いです。
ここでは、北海道で収入を得る5つのルートを整理します。どれが合うかは、今の職種・スキル・家族構成で変わるので、「全部見てから選ぶ」つもりで読んでください。
リモートワーク・サテライトオフィス
収入を落とさずに移住する方法として、もっとも現実的なのがリモートワークです。東京の企業に在籍したまま、北海道で働く。コロナ以降この選択肢は一気に広がりました。
総務省は「おためしサテライトオフィス」という制度を設けていて、地方自治体がオフィス環境を用意し、企業に短期間のお試し利用を提供しています。北海道では厚真町をはじめ、複数の自治体がこの制度を活用して企業誘致を進めています。
気になるのは通信環境です。札幌市内であれば光回線は問題ありませんが、郡部に行くと回線速度が不安定な地域もあります。移住先を決める前に、実際にその場所でスピードテストをやるくらいの慎重さが必要です。コワーキングスペースは札幌を中心に増えていますが、地方都市ではまだ選択肢が限られます。
リモートワークで移住している人の職種は、エンジニア・デザイナー・ライター・マーケターなど、PC1台で完結する業務が中心です。ただし、月に1〜2回の出社が求められるケースでは、新千歳空港へのアクセスが生命線になります。札幌・千歳周辺なら問題ありませんが、道北や道東に住む場合は往復の交通費と時間を計算に入れてください。
起業・個人事業
北海道で起業するメリットは、固定費の安さに尽きます。札幌市内でも、東京の半額以下でオフィスを借りられる物件はざらにあります。自宅兼事務所にすれば、さらにコストは下がります。
自治体の創業支援も充実しています。たとえば北海道信用保証協会の創業関連保証や、各市町村の創業補助金など、資金面でのサポートは探せば出てきます。クラウドファンディングで開業資金を調達し、地域の素材を使った飲食店や宿泊業を始める移住者も増えています。
もうひとつ見逃せないのが事業承継です。北海道では後継者不足で廃業を検討している事業者が少なくありません。既存の顧客基盤・設備・ノウハウを引き継ぐかたちで事業を始められるのは、ゼロからの起業にはないメリットです。
開業届の届出先は、移住先を管轄する税務署です。郡部では最寄りの税務署まで車で1時間以上かかる場合もあるので、e-Taxでのオンライン届出がおすすめです。
一次産業(農業・漁業・林業)
「北海道で農業をやりたい」という移住希望者は多いですが、未経験から始めるにはそれなりの覚悟と準備がいります。逆に言えば、支援制度はかなり手厚く整備されています。
新規就農の支援制度として代表的なのが「新規就農者育成総合対策」です。もともと「農業次世代人材投資資金」という名称でしたが、令和4年度に改称されました。中身は「就農準備資金」と「経営開始資金」の2本立てです。
| 資金名 | 対象 | 年間交付額 | 交付期間 |
|---|---|---|---|
| 就農準備資金 | 研修期間中の就農希望者(50歳未満) | 最大150万円 | 最長2年間 |
| 経営開始資金 | 新規就農した認定新規就農者(50歳未満) | 最大150万円 | 最長3年間 |
年間150万円、月額に換算すると約12.5万円です。これだけで生活するのは厳しいですが、研修中の生活費の下支えとしては大きいです。ただし、研修終了後1年以内に就農しなかった場合は返還義務が生じます。「とりあえずもらっておく」という姿勢では使えない制度です。
漁業を目指すなら、各地の漁協が実施する研修制度を探してください。北海道は漁協の数が多く、研修の受け入れ態勢が整っている地域もあります。林業については、林野庁の「緑の雇用」制度があり、未経験者を対象にした研修・就業プログラムが用意されています。
収入の現実も押さえておきましょう。新規就農者が経営を安定させるまでには、一般的に3〜5年かかると言われています。農林水産省の統計では、北海道の稲作農家の平均所得は500万円前後ですが、これは経営が軌道に乗った中堅以上の数字です。就農初年度から同水準を期待するのは無理があります。
地域おこし協力隊
「まず移住して、暮らしながら次のステップを考えたい」──そういう人に向いているのが地域おこし協力隊です。
制度の仕組みはシンプルで、都市部から過疎地域に住民票を移し、自治体から委嘱を受けて地域活動に従事します。任期は1年以上3年以下。報酬として年間最大320万円(月額約16万〜26万円)が支給され、別途、活動費として年間最大200万円が措置されます。活動費には家賃補助や車両費が含まれるケースが多く、実質的な生活コストはかなり抑えられます。
2024年度の隊員数は全国で7,910人と過去最多を記録しています。北海道内でも多くの自治体が募集しており、ニッポン移住・交流ナビ JOINで検索できます。
気になるのは「任期後どうなるか」です。総務省の調査(2024年度)によると、任期終了後に同一市町村に定住した人は約56%、近隣市町村を含めると約70%が活動地域に定住しています。定住した人の進路は、起業が約46%ともっとも多く、次いで就業が約34%です。



協力隊は「向いている人」と「向いていない人」がはっきり分かれます。地域の人間関係に溶け込む柔軟性がないと、3年間がかなりきつくなります。任期後のビジョンを持たずに応募するのもおすすめしません。
転職(道内企業への就職)
北海道の有効求人倍率は、2025年の年間平均で0.97倍でした。全国平均(約1.2倍)を大きく下回り、1倍未満は2年連続です。求職者1人に対して求人が1件に満たない状況なので、首都圏と同じ感覚で転職活動をすると苦戦します。
とくに顕著なのが、札幌とそれ以外の格差です。札幌市内には本社・支社を置く企業が集中しており、事務職・IT・サービス業の求人がそれなりにあります。一方、郡部では医療・介護・建設・農業関連に求人が偏る傾向が強いです。
年収の現実も知っておきましょう。厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、北海道の平均賃金は全国平均を下回ります。首都圏から転職する場合、年収が50万〜100万円下がるケースはめずらしくありません。ただし、家賃や物価を考慮すると、可処分所得ベースではそこまで差が開かない場合もあります。このあたりは後述する「生活費」のセクションで掘り下げます。
求人の探し方は、ハローワークインターネットサービスで地域を北海道に絞って検索するのが基本です。加えて、北海道に強い転職エージェントを併用すると、非公開求人にアクセスできる可能性があります。
北海道での働き方についてもっと詳しく知りたい方は、北海道の仕事・働き方ガイドもあわせてご覧ください。
移住前に知っておくべきお金の話
退職してから移住するまでの間、収入がゼロになる期間が発生します。この空白期間をどう乗り越えるかが、移住の成否を分ける最大のポイントです。
退職後に受け取れる公的な手当
会社員として雇用保険に加入していた人が退職した場合、一定の条件を満たせば失業保険(雇用保険の基本手当)を受給できます。
受給の条件は、離職前2年間に12か月以上の被保険者期間があること(会社都合退職の場合は6か月以上)。日額は在職中の給与をもとに計算され、おおむね離職前賃金の50〜80%の範囲です。月収30万円・勤続10年・35歳の自己都合退職の場合、基本手当の日額は約5,500円。30日換算で約16.5万円になります。
注意すべきは、移住を理由とした退職は「自己都合退職」に分類されるケースがほとんどだということです。自己都合退職の場合、ハローワークに離職票を提出してから7日間の待機期間+原則2か月間の給付制限があります。つまり、退職後すぐにはお金が入りません。
もうひとつ知っておきたいのが再就職手当です。失業保険の受給中に早期に再就職が決まった場合、残日数に応じた一時金が支給されます。移住先で仕事が早く見つかれば、まとまった金額を受け取れる可能性があります。
失業保険の受給条件や申請方法の詳細は、別記事で掘り下げて解説する予定です。
移住支援金・補助金
国の「地方創生移住支援事業」を使えば、東京圏から北海道に移住する際に支援金を受け取れます。
| 区分 | 支給額 |
|---|---|
| 単身での移住 | 最大60万円 |
| 世帯での移住(2人以上) | 最大100万円 |
| 18歳未満の子どもを帯同 | 子ども1人につき最大100万円を加算 |
たとえば、夫婦+子ども2人の4人家族で移住した場合、最大300万円(100万+子ども100万×2人)の支援金を受け取れる計算です。金額だけ見れば大きいですが、条件があります。
対象は、移住直前の10年間に通算5年以上、かつ直近1年以上、東京23区に在住または東京圏から23区に通勤していた人です。北海道内の対象市町村に転入し、移住先の中小企業への就職・テレワーク継続・起業のいずれかを行う必要があります。
北海道内でこの制度を実施している市町村の一覧は、内閣官房・内閣府「地方創生移住支援事業」のページで確認できます。
自治体独自の上乗せ支援もあります。たとえば、住宅取得補助(最大100万〜200万円程度)、引っ越し費用の助成、家賃補助などを設けている市町村があります。支援内容は自治体ごとに異なるため、候補地が絞れてきたら各自治体の公式サイトを直接確認してください。
エリアごとの支援制度の比較はエリア情報ページで紹介しています。
北海道暮らしのリアル
「自然が豊かで、食べものがおいしくて、家賃が安い」──北海道のイメージはだいたいこの3つに集約されます。どれも事実ですが、それだけで移住を決めると確実に後悔します。ここでは、移住後に「聞いてない」とならないためのリアルな情報を書きます。
生活費
家賃は首都圏と比べて大幅に安いです。札幌市内の1LDK〜2LDKで月4万〜6万円台、地方都市(旭川・帯広・函館など)なら3万〜5万円台、郡部であれば2万円台の物件もあります。東京23区で同じ広さの部屋を借りる場合の半額〜3分の1です。
ただし、冬の光熱費は首都圏の2〜3倍になります。灯油やガスの暖房費が月2万〜4万円かかることも珍しくありません。とくに古い賃貸住宅は断熱性能が低く、暖房費がかさみます。物件選びの際は、築年数と断熱等級をかならず確認してください。
車の維持費も見落としがちです。札幌市中心部を除けば、北海道の生活に車はほぼ必須です。ガソリン代・保険・車検・冬タイヤの購入を合わせると、年間で30万〜50万円はかかります。



トータルで首都圏より安くなるかどうかは、正直「住む場所と暮らし方による」としか言えません。家賃は確実に下がりますが、車と暖房費が上乗せされるので、劇的に安くなるわけではないです。
気候と冬の暮らし
北海道の冬は長いです。札幌では11月下旬から4月上旬まで雪があります。道北(旭川・稚内方面)は最低気温が−20℃を下回ることもあり、道東(帯広・釧路方面)は降雪量は少ないものの放射冷却で猛烈に冷え込みます。道南(函館方面)は比較的穏やかですが、それでも東京の冬とは次元が違います。
戸建てに住む場合、除雪の負担は避けられません。朝の出勤前に30分〜1時間かけて雪かきをする日が続くこともあります。マンションやアパートなら管理会社が対応してくれるケースが多いので、最初の冬は集合住宅を選ぶのが無難です。
通勤・通学事情も変わります。冬は道路が凍結するため、車の運転には冬道の経験が必要です。JRやバスも遅延・運休が頻発します。「吹雪で学校が休みになる」のは北海道では日常の一部です。
ここまで書くと不安になるかもしれませんが、「思ったより大丈夫だった」という声も多いです。室内は断熱がしっかりしている住宅なら東京より暖かいし、冬の空気は澄んでいて気持ちいい。雪まつりやウインタースポーツを楽しめるのは北海道ならではの特権です。要は、「覚悟はいるが、慣れる」というのが多くの移住者の実感です。
子育て・教育環境
保育園の待機児童に関しては、北海道は全国的に見ても少ないほうです。札幌市内でも待機児童はほぼ解消されており、地方都市や郡部ではさらに入りやすい状況です。
学校は少人数教育になるケースが多いです。1学年10人以下という学校も珍しくありません。これをメリットと見るかデメリットと見るかは家庭の方針次第ですが、先生の目が行き届きやすいのは確かです。反面、部活の選択肢が限られる、同世代の友人が少ないといった課題はあります。
もっとも注意が必要なのは医療アクセスです。郡部では小児科が近くにない地域もあり、子どもの急病時に車で30分〜1時間かけて病院に向かう、ということが現実に起こります。移住先を決める際は、厚生労働省 医療情報ネットで近隣の医療機関を事前にチェックしておくことを強くすすめます。
子育て支援が手厚い自治体の例としては、東川町(中学生まで医療費無料・妊産婦への家事サポート)、上士幌町(認定こども園の保育料無料)などがあります。自治体の公式サイトで子育て支援制度を比較してから候補地を絞ると、失敗が少ないです。
北海道移住を始めるための最初の一手
ここまで読んで、「やることが多すぎて何から始めればいいか分からない」と感じた人もいると思います。優先順位をつけるなら、以下の3つから手をつけてください。
情報収集──移住フェアとオンライン相談
まずは情報収集です。北海道への移住相談は、北海道庁「北海道移住定住ポータルサイト」から申し込めます。東京にある「ふるさと回帰支援センター」でも対面相談ができますし、オンライン相談にも対応しています。
年に数回開催される移住フェアに参加するのも有効です。複数の自治体の担当者が一堂に集まるので、効率よく比較検討できます。「何を聞けばいいか分からない」という段階でも、担当者と話すことで自分の優先順位が整理されます。
移住相談の詳細は移住ガイドページにもまとめています。
体験移住──「ちょっと暮らし」制度
北海道には「ちょっと暮らし」という独自の体験移住制度があります。自治体が用意した家具家電付きの住宅に、1週間〜数か月程度滞在できる制度です。費用は自治体によって異なりますが、月額1万〜3万円程度で滞在できるケースが多いです。
いきなり移住するのではなく、まず現地の気候・買い物環境・通勤距離・人間関係を体験してから判断する。この「試してから決める」というプロセスを踏むだけで、移住後のミスマッチは大幅に減ります。
「ちょっと暮らし」を実施している自治体の情報は、体験移住ページで確認できます。
お金の準備──退職前にやっておくこと
退職後に慌てないために、在職中にやっておくべきことがあります。
- 健康保険の選択肢を確認する(任意継続 or 国保。保険料を市区町村の窓口で試算してもらう)
- 年金の切り替え手続きを調べておく(厚生年金→国民年金への変更)
- 失業保険の受給に必要な離職票を退職時にかならず受け取る
- 住民税が退職後も請求される点を把握しておく(前年所得に基づくため、退職直後が一番きつい)
- 貯金の目安は最低3〜6か月分の生活費。移住にかかる引っ越し費用も上乗せして計算する
失業保険の申請は、移住先のハローワークでも行えます。ただし、引っ越し前のハローワークで手続きを開始してから住所変更する場合と、移住先で最初から手続きする場合とでは、受給開始のタイミングが変わることがあります。自分のケースではどちらが有利かを、事前にハローワークインターネットサービスで確認しておいてください。
制度情報は2026年3月時点の公式情報に基づいています。金額や条件は改正される場合がありますので、申請前にかならず各制度の公式サイトで最新情報を確認してください。
(最終更新日:2026年3月)
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